自立分散型電源である蓄電池による防災力(レジリエンス)向上効果の貨幣価値評価について
前回のコラムでは「自立分散型エネルギーシステムによる防災力(レジリエンス)向上の定量効果」についてお話しました。初期投資の高さやエネルギーレジリエンスの効果を評価する共通のものさしが少ない等の課題があり、特にエネルギーレジリエンスの効果を定量的に示せてこなかったが故に、レジリエンス強化のための投資は低収益またはゼロ収益(コスト)でしかなく、したがって積極的な投融資に見合うリターンが望みにくいという課題を提示しました。
この課題に対する学術的アプローチとしていくつかの論文が発表されていますが、その中で今回は、渡部・村木(2017)「都市機能維持に向けた蓄電池の面的整備に関する研究[1]」に従って、当社が熊本市上下水道局庁舎に設置した大型蓄電池の、非常時に蓄電池から電力供給を行うことによる業務活動の停止回避効果(エネルギー供給停止回避及び法規制強化等のリスク回避)を貨幣価値に換算することを試みました。
1つ目として、エネルギー供給停止回避(円/年)は、以下の算出方法を活用しました。
(B1)エネルギー供給停止回避(円/年)=(b1)供給停止額原単位(円/kWh)×(b2)蓄電池容量(kWh)×(b3)発生確率(回/年)
(b1)供給停止額原単位及び(b3)発生確率は、渡部・村木(2017)の設定数値を活用し、(b2)蓄電池容量は実際導入した蓄電池704kWhを使用しました。
計算式にすると、(b1)供給停止額原単位 5,230円/kWh ×(b2)蓄電池容量704kWh×(b3)発生確率1/45回/年=(B1)エネルギー供給停止回避は81,820(円/年)となりました。
2つ目として、法規制強化等のリスク回避(円/年)は、以下の算出方法を活用しました。
(B2)法規制強化等のリスク回避(円/年)=(b4)電力料金(円/年)×(b5)リスク回避費用率(%)
(b4)電力料金は、仮に電力料金にフラットレートを18円/kWh、また庁舎の年間電気使用量876,000 kWh(400kW、負荷率25%)と設定し、(b5)リスク回避費用率は、日本サステナブル建築協会(2016)[2]の数値を活用しました。
計算式にすると、(b4)電力料金 15,768,000円/年×(b5)リスク回避費用率2.25%=(B2)法規制強化等のリスク回避(円/年)は354,780(円/年)となりました。
蓄電池事業の事業期間は20年を想定していますので、(B1)エネルギー供給停止回避と(B2)法規制強化等のリスク回避の合算金額を20年で乗じますと、8,732,000円になります。
以上のように、自立分散型電源である蓄電池による防災力(レジリエンス)向上効果の貨幣価値評価をしてみました。防災のための蓄電池設置も、間接便益による貨幣価値に換算してみると、導入する自治体等の総合評価が変わり、脱炭素化とレジリエンスのコベネフットにより導入が拡大するかもしれません。 スマートエナジー熊本も災害に強く、脱炭素化に寄与する自立・分散型のエネルギーシステムの構築を目指して、蓄電池の設置などを実施していきます。
[1] 渡部彩乃、村木美貴(2017)「都市機能維持に向けた蓄電池の面的整備に関する研究〜非常時における電力需要を考慮して〜」公益財団法人日本都市計画学会都市計画論文集Vol.52 NO.3 2017.10 p.487-493
[2] 一般社団法人日本サステナブル建築協会「エネルギーコベネフィットクリエイティブタウン調査報告書」2016,6 p33