COP26で決まったこと

 2021年10月31日から11月12日にかけ、英国のグラスゴーという都市で開催された第26回国連気候変動枠組条約締約国会合(COP26)[1]は、今後の決定的な10年の間に温室効果ガス排出削減をさらに推進していくことをあらためて確認する機会となりました。少し時間が経ってしまいましたが、改めて今回のコラムではCOP26で決まったことの大事な一部をお伝えします。(大事な話ですので)

 COP26を理解するためには、これまでの経緯を理解しておくことが肝要です。2015年に採択されたパリ協定(COP21の時)では、気候変動による悪影響を最小限に抑えるために、産業革命前からの気温上昇幅について、2℃を下回る水準で維持することを目標とし、さらに1.5℃に抑える努力をすべきとしました。しかし、その後、2℃までの上昇を許容していると甚大な悪影響を免れないという危機感が高まり、1.5℃を目指すべきだという声が高まりました。現在、すでに地球は1850~1900年以降に約1.1℃[2]上昇してしまっているため、1.5℃目標を目指すためには、2050年までに世界の二酸化炭素排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラルとほぼ同義)にし、2030年までに2010年比で約45%削減することが必要と言われています。2019年以降、2050年実質ゼロを宣言する国や自治体[3]が増えましたが、COPの条約の公式な文書の中に、1.5℃削減目標は反映されていませんでした。

 しかし、2021年米国バイデン政権発足を契機に世界が動き出しました。4月には米国主催で気候サミットがオンラインで開催され、6月にはG7サミット(主要7カ国首脳会議)のホスト国英国が、気候変動を最重要テーマとして掲げました。9月には、各国が見直した最新の2030年目標に基づき、世界全体の2030年排出量をUNFCCC事務局が計算し直しました。その結果、2.7℃までは抑制される可能性があるのですが、2℃や1.5℃に抑えるためには、さらに削減しなくてはならないことが分かりました。このような経緯を経て、COP26では、どうやったら1.5℃に近づけられるかという点に関心が集まりました。

 COP26で決まったことは多数ありますが、重要なポイントは「1.5℃目標の公式文書への明記」です。2℃よりも1.5℃に抑えることが、気候変動の悪影響を回避するためには望ましいという点では、各国とも異論はありませんが、これを正式な目標として認めることにより、2030年までに大幅な削減を実施することにも賛同しなくてはならなくなるため、様々な意見が生じることになり、これまでのCOPではトランプ政権下の米国などが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の知見や1.5℃に言及することさえ反対してきたのもそのためです。

 今回もそのような懸念から、1年後までに2030年目標を再度見直すということに関しては「必要に応じて」という文言が入り、石炭火力発電や化石燃料への補助金の段階的廃止に関しても、当初の議長案より表現が弱められました。つまり、他の合意内容を弱める意見に譲歩をしてでも、1.5℃を目標として明記したことに、この文書の意義があるとして、合意に至りました。

 その他にも、日本にとって重要なテーマがありました。「パリ協定[4]第6条「市場メカニズム」に関するルール制定」です。6条では、先進国から途上国への技術移転等の方法で、複数の国が協力して排出削減する制度が認められています。しかし、事業参加国の間で、排出削減分を分配する際に、ダブルカウントが生じないか、といった懸念が指摘されていました。このような対立点が多く、これまで6条を実施に移すために必要な詳細ルールが決まっていませんでしたが、今回ようやく合意されました。ダブルカウントとならないよう厳密に測定、報告、検証することや、京都議定書で認められていたクリーン開発メカニズム(CDM)の排出削減分は限定的にしか認めないといったルールを整備しました。日本は、独自に二国間クレジット制度(JCM)という制度を構築し、途上国の排出削減を支援してきたため、日本にとって重要なテーマでした。今後、日本の協力によって途上国で実現した排出削減枠の一部が、日本の削減分としてカウントされる道が開けたことになります。

 以上のように、COP26の成果は、何よりも世界全体で1.5℃を目指すことが確認された点が重要です。しかし、すでに1℃以上気温が上昇してしまっている今の状態からこの目標を達成するには、社会システム変革を含めた大胆な対応を要します。今回の目標確認はようやくスタート地点に立ったところで、今後それに向けて全速力で走り出さなくてはならないのです。そのため今後は民間企業や自治体の役割がますます重視されます。

 最後に、会場の外では、多くの市民や若者が集まり、デモ行進が行われました。交渉の中でも、このような若者たちの声に言及し、本会合で1.5℃が目標とされなければ、子供や孫たちの世代に対して取り返しがつかないことになるという発言が多く聞かれました。今まで以上に将来世代への配慮が求められたCOPとなったようです。

参考文献;
1)2021.11.18「COP26閉幕:「決定的な10年間」の最初のCOPで何が決まったのか?
執筆:亀山 康子(国立環境研究所社会システム領域領域長)
https://www.nies.go.jp/social/navi/colum/cop26.html

2)2021.11.16「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)、京都議定書第16回締約国会合(CMP16)、パリ協定第3回締約国会合(CMA3)等」外務省ホームページ
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page24_001540.html

3) 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)「UNFCCC COP26特集」ホームページ
https://www.iges.or.jp/jp/projects/cop26


[1] COPとは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)を批准するすべての国(締約国)が参加する会議であり、最高意思決定機関です。今回は26回目の締約国会議なのでCOP26と呼びます。1995年にベルリンで第1回会合を開き、97年の京都でのCOP3では京都議定書をまとめました。ただ、先進国だけに排出削減を求める内容だったため米国が離脱し、骨抜きになりました。

[2] IPCC『気候変動2021:自然科学的根拠』- 気候変動に関する政府間パネル第6次評価報告書への第1作業部会の報告に記載されています。
https://www.unic.or.jp/news_press/info/42637/

[3]  2021年10月29日時点、「2050年まで二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明した自治体は479、総人口約1億1,177万人
https://www.env.go.jp/policy/zerocarbon.html

[4] 1997年に採択された京都議定書以来18年ぶりとなる気候変動に関する国際的枠組みであり、気候変動枠組条約に加盟する全196カ国全てが参加する枠組みとしては史上初。29条で構成される。