自立分散型エネルギーシステムによる防災力(レジリエンス)向上の定量効果について
東日本大震災、熊本地震、さらには2018 年の北海道胆振東部地震による史上初のブラックアウトや 2019 年の台風 15 号等による大規模停電等によって、災害時におけるエネルギー供給、特に電力の確保が業務継続には大事な要素になります。そのため、国は非常時においても安定したエネルギー供給が可能な自立分散型電源と蓄電池を整備し、それらを自営線などで接続する等のエネルギーレジリエンスの重要性が再確認されました。
熊本市も熊本地震の経験を踏まえ、市民・地域・行政があらゆる災害への対応力を強化するとともに、道路や橋梁、上下水道等の都市基盤を強化など災害に強いまちづくりを行っています。またスマートエナジー熊本も災害に強く、脱炭素化に寄与する自立分散型のエネルギーシステムの構築を目指して、大型蓄電池の設置や清掃工場と直結する自営線およびEV急速充電設備の設置を実施してきました。
しかしながら、今後の更なるエネルギーに関するレジリエンス向上のためには、初期投資の高さやエネルギーレジリエンスの効果を評価する共通のものさしが少ない等の課題があります。特にエネルギーレジリエンスの効果を定量的に示せてこなかったが故に、レジリエンス強化のための投資は低収益またはゼロ収益(コスト)でしかなく、したがって積極的な投融資に見合うリターンが望みにくいという課題があります。
その課題に対し、経済産業省は、2020年2月に「エネルギーレジリエンスの定量評価に向けた専門家委員会[1]」を発足しました。本検討会では、先進的な取組を行う産学金の関係者が集まり、エネルギーレジリエンスを向上させる産業界等の取組が金融的にも適正に評価され、ビジネスやファイナンスにつなげていくためにどのような仕組みが必要なのかについて、集中的に議論を行いました。これはどういうことかと言いますと、どのような取組がエネルギーレジリエンスを向上させるのか、そうした取組がどのように企業収益の向上につながるのか、これらをどのように定量的に評価し得るのかについて、エネルギー業界、需要家及び金融界のそれぞれにおいて、知見やノウハウの蓄積が十分でなかったことということです。
しかし、本委員会の中間論点整理のレポート(2020年7月)[2]では、潮目が変わりつつあると報告されています。一部の産業では、エネルギーレジリエンス向上を求める顧客の声を受け、具体的な投融資を進める事例が見られるようになってきているようです。また、国外に目を転じると、新型コロナウィルス感 染症の拡大等により、エネルギーレジリエンスへの関心が急速に高まり、これをビジネス・ファイナンスにつなげていく動きが加速しているという現実があるようです。例えば米国では、「危機を回避し、やりすごす」リスクマネジメントに代わり、「危機を克服し、従前より強い形で復旧・回復する」レジリエンスマネジメントこそ次のビジネスになるとの認識の下、レジリエンスの定量評価、資格整備、金融措置を進める動きが急ピッチで進みつつあるとのことです。
一方、慶応義塾大学の伊香賀教授や一般社団法人建設環境・省エネルギー機構の村上周三理事長らは、「ライフラインの途絶に備えた対策がもたらす地域のレジリエンス向上効果の評価手法の提案[3]」という論文を発表されており、ライフラインの途絶に備えた対策がもたらす地域のレジリエンス向上効果の評価手法の提案として、地域レベルのエネルギーシステムによるレジリエンス向上効果の貨幣価値評価をしています。次回のコラムでは、この貨幣価値化の内容を咀嚼し、例えば熊本での蓄電池や自営線導入の貨幣価値化が可能かどうか、チャレンジしてみたいと思います。
[1] https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/energy_resilience/index.html
[2] エネルギーレジリエンスの定量評価に向けた検討会中間論点整理
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/energy_resilience/pdf/20200720_01.pdf
[3] 大束開智、伊香賀俊治、村上周三、工月良太、川除隆広(2017) 「ライフラインの途絶に備えた対策がもたらす地域のレジリエンス向上効果の評価手法の提案」日本建築学会環境系論文集第82巻第735号p. 471-479